赤穂市の進学個別指導塾Willbeの光庵(こうあん)です。
「うちの子、図形に苦手意識があって…」というご相談を、本当によくいただきます。
毎年、中学生たちが頭を悩ます「点Pが動く問題」。小学生では立体の展開図、面積を求める問題、補助線を引く問題。
学年が上がってお子様がつまずくたびに、「図形のセンス」という言葉に親御さんが翻弄されてしまうように思います。
今日はこの「図形のセンス」という、ふんわりした言葉を分解してみたいと思います。
「センス」という言葉の罪深さ

センスの半分は後天的?
「図形はセンスだ」と言われると、多くの親御さんは少し絶望します。
「うちの子、センスないみたいで」
「私も図形苦手だったから、遺伝かも」
こういうお声をよく聞きます。
でも、ちょっと待ってください。
「センス」を「生まれ持った才能」と訳した瞬間、教育は終わってしまいます。
私はそもそも、「センス」をそんなふうに捉えていません。センスとは英語で言えば感覚です。感覚は、身体を使って磨いていけるものです。
目を鍛え、手を動かし、頭の中で何度もイメージしてきた子だけが、後から「センスがあるね」と言われるようになるだけのことです。
つまり、「図形のセンス」は鍛えられるということです。
図形のセンスとは何か|三つに分解する
ふんわりした「センス」を、もう少し具体的に分解してみます。私は図形のセンスを次の三つに分けて考えています。
①位置関係をとらえる力(空間認識能力)
ある物体がどの位置にあるか、どれくらいの大きさか、どういう形か。それを目で見て頭の中で再現する力です。これがいわゆる空間認識能力です。
野球選手が見ていない方向のボールを背面キャッチできたり、外科医が血管や臓器の位置関係を頭の中で立体的に思い浮かべて手術したりできるのは、この力のおかげです。
②図形を言葉で説明する力(言語化)
意外と見落とされがちですが、これがすごく大事です。Willbeが特に重視している「言語化」の力です。
「ボールは、なぜ円ではないの?」と聞かれて、
- 「丸いけど円とは違うから」
- 「形が違うから」
としか答えられない子は、図形に弱い傾向があります。
正解は、「円は平面上の図形で、球は立体だから」です。
ボールは立体なので、円ではなく球。
つまり、図形を「視覚的な印象」ではなく「言葉の定義」で理解できているかということ。これは、学年が上がるにつれて決定的な差になります。
③解法を引き出しから取り出す力
図形問題には、「ひらめきが必要」と言われる問題があります。
でも私は、「ひらめき」は突然湧いてくるものではないと思っています。
過去に解いた問題のパターンが頭の中の引き出しに整理されていて、目の前の問題と照らし合わせた瞬間、「あ、あれと同じだ」と取り出せる。それを傍から見ると「ひらめいた」ように見えるだけです。
なぜ図形が苦手になるのか|

つまずきの原因
ここから、もう少し具体的に「なぜ図形でつまずくのか」を見ていきます。原因はだいたい四つに集約されると思っています。
原因1|イメージ力が育っていない
たとえばサイコロの展開図を見て、「向かい合う面はどれとどれですか?」と聞かれた時。
頭の中で展開図を組み立てて、立体に変換する。この変換ができない子が、本当に多いのです。
「L字型の図形の面積を求めなさい」という問題でも、「縦に切ればいい」「横に切ればいい」と分割の仕方をイメージできるかどうかで、解けるか解けないかが決まります。
このイメージ力は、机の上の問題集だけでは育ちません。
折り紙を折ったり、積み木を組み立てたり、粘土をこねたり。手を動かして「具体物」に触れた経験の総量が、後で図形問題のイメージ力として効いてくるのです。
これは、Willbeがいつも申し上げている「身体性」を伴う学びそのものです。
原因2|基本用語の定義があいまい
「半径」と「直径」の違い、お子様にすぐ説明できますか?
…大人でも、ちゃんと説明できる方は意外と少ないです。
- 半径
円の中心から円周までの長さ - 直径
円周から円周まで、中心を通る直線の長さ
(半径の2倍)
似ていますが、別物です。
他にも、
- 辺と面
- 頂点と角
- 直角と垂直
- 線対称と点対称
- 合同と相似
こういった定義が「なんとなく」で済まされていると、学年が上がった瞬間、問題文の意味自体が分からなくなります。「わかったつもり」が一番こわいのです。
原因3|公式を意味も知らずに丸暗記している
「三角形の面積=底辺×高さ÷2」
なぜ÷2なのでしょうか。
理由
同じ三角形をもう一つ用意してひっくり返してくっつけると、平行四辺形になるからです。平行四辺形の面積は「底辺×高さ」。三角形はその半分なので、÷2する。
これを分かって覚えている子と、ただ呪文のように覚えている子では、応用問題に出会った時の対応力が全然違います。
公式の丸暗記は、一見「効率がいい」ように見えて、応用が効かない学習法の典型です。公式を知っていることと、公式を理解していることは、まったく別のことなのです。
原因4|図形を言葉で説明できない
先ほどの「ボールはなぜ円ではないか」の話と重なりますが、これは独立した問題として大きいです。
図形に苦手意識のあるお子様は、長さや重さを聞かれているのに「大きい・小さい」でしか答えられなかったり、「cm」「cm²」「度」といった単位を正確に使えなかったりします。
低学年のうちから、「定義の言葉」で図形を語れるようにしてあげること。これが、学年が上がってからの抽象的な内容に対応していくための土台になります。私たちが日々の指導で対話教育を大事にしているのは、まさにこの「言語化」の力を育てるためです。
そもそも、図形問題に出会う回数が少なすぎる
原因5|図形問題に出会う回数が少なすぎる

本格的に頭を使う図形問題に小学生時代に何十問・何百問と取り組んでいるのは、中学受験塾に通っている一部のお子様だけ
ここは、私が一番声を大にして言いたいところです。
正直に申し上げます。
ガチで中学受験を目指している一部のお子様、
そして偶然、
図形理解に役立つ遊び方をしてきたお子様。
この二者を除けば、ほとんどの小学生は、小学校の間にまともな図形問題に取り組んでいません。
学校の教科書や宿題に出てくる図形は、
- 三角形・四角形の名前を覚える
- 公式に数字を当てはめて面積を出す
- 簡単な作図をする
このあたりで終わってしまいます。「補助線を引いて、合同や相似を見つけて、解く」というような、本格的に頭を使う図形問題に小学生時代に何十問・何百問と取り組んでいるのは、中学受験塾に通っている一部のお子様だけ、というのが現実です。
中学受験をしていないのに、なぜか図形が得意な子」の存在
ただ、ここで重要なのは、「中学受験をしていないのに、なぜか図形が得意な子」も存在するということです。
そういうお子様の話を聞くと、ほぼ例外なく、
- 幼児期から積み木やレゴでひたすら遊んでいた
- 折り紙が好きで、いろんな立体を折ってきた
- パズルやタングラムが家にあって、よく遊んでいた
- 図工や工作が好きで、空き箱で何かを作るのが日常だった
- ボードゲームやブロック系のおもちゃで遊び込んできた
…といった共通点があります。
つまり、「たまたま」図形理解につながる遊び方をしてきただけなのです。
本人も親御さんも「これが算数のために役立つ」とは思っていなかった。でも結果的に、頭の中で立体を回転させたり、形を分解して組み立て直したりする力が、知らないうちに育っていたのです。
無意識の差
ここで何が起きるか、お分かりでしょうか。
中学受験もしていない、特別な遊び方もしてこなかった、ごく普通のお子様は、中学校に入ってから初めて、本格的な図形問題と出会うことになります。
中学1年生で平面図形・空間図形、2年生で合同、3年生で相似・三平方の定理。図形を「ちょっとかじっただけ」のお子様が、いきなり証明問題や複雑な空間図形に放り込まれる。
そりゃあ苦手になります。経験量が圧倒的に足りていないのです。
しかも、もう一つ深刻な問題があります。
中学校のカリキュラムでは、図形の最重要単元である「相似」が中3の3学期に入ってからようやく登場するのです。
少なくとも赤穂市の中学校では。
これ、何が問題か分かりますか?
3学期は、ご存知の通り、もう高校受験の直前期です。学校の授業で相似を一通り習い終わるのは、年明け以降。そのまま入試本番を迎える子が、毎年大量に発生しているということです。
入試では「相似と三平方の定理を組み合わせた図形問題」「円と相似の融合問題」など、複雑な図形問題が必ず出題されます。本来であれば、相似を習った後に何十時間もかけて演習を積み、解法のパターンを引き出しに整理し、複雑な問題に対応できるようにしてから入試に臨むべきなのです。
ところが現実は、相似を習い終わった瞬間に入試本番。
一番大事な図形の演習をする時間がないまま、高校受験を迎える。
これが、中学校3年間の図形カリキュラムの現実です。
だから、Willbeでは中3生に対して、夏前から相似の先取りをして、夏休みから秋にかけて図形演習をしっかり積めるように指導しています。学校のペースに任せていたら、絶対に間に合わないからです。
「図形のセンスがない」のではなく、「図形と向き合う絶対量」が少ないだけ
「図形のセンスがない」のではなく、「図形と向き合う絶対量」が少ないだけ——というのが私の見立てです。
中学受験をするお子様は、毎週何時間も、何年間も、図形問題と格闘しています。「たまたま図形に強くなる遊び」をしてきたお子様も、遊びの中で何百時間も図形に触れています。それと比較したとき、それ以外の普通の小学生は「練習量がゼロに近い」と言っても過言ではないのです。
だからこそ、中学受験をしないご家庭ほど、家庭で意識的に図形と触れる機会を作ってあげるべきだと私は思っています。「たまたま」に賭けず、意識的に遊びをデザインしてあげる、ということです。
タングラム、ペントミノ、点描写、立体パズル、迷路、展開図遊び。
問題集を解かせるのではなく、「図形を頭の中でいじる時間」を、週に少しでも持たせてあげてほしいのです。
中学に入ってから「うちの子、図形がダメで…」となるお子様の多くは、才能の問題ではありません。ただ単に、出会った量が足りなかっただけなのです。
学年別|図形の力を育てる関わり方

では、家庭で何ができるのか。発達段階別に整理します。
幼児期
図形を「遊び」として体験する
幼児期のテーマは、ただひとつ。
「遊びの中で、たくさんの形に触れる」です。
- 折り紙、切り紙
- お絵描き
- 積み木、ブロック、立体パズル
(タングラムや三角パズルもおすすめ) - 空き箱を使った工作
- 粘土
「三角に切れるかな?」「ブロックで車を作れる?」と声をかけてあげてください。
ここで大事なのは、「これは三角形」「これは四角形」と知識を教えることではありません。手と目と頭で形を体験させること——つまりアナログ体験を積ませることです。Willbeでも、年長〜小3のお子様には積み木やパズル、点描写などを通して、徹底的に具体物と向き合ってもらっています。
タブレットで図形アプリをやらせるよりも、まずは手で触れる。これは譲れない順番だと思っています。
小学校低学年
感覚から具体への橋渡し
低学年は、感覚的に親しんできた形を「図形」として整理する時期です。
1〜2年生では、
- 形の名前と特徴
- 三角形・四角形を見分ける
- 辺、頂点といった用語
3年生になると、
- 二等辺三角形、正三角形、円、球の性質
- コンパス、三角定規の使い方
- 角度の概念
…と、一気に内容が増えます。
ここで「コンパスがうまく使えない」「三角定規の置き方が分からない」というつまずきが生まれます。これは手先の巧緻性の問題でもあります。前に書いた鉛筆や下敷きの記事と、根は同じ話です。
「正方形ってどんな形?」「正三角形と二等辺三角形の違いは?」とご家庭でも問いかけてみてください。子どもが言葉で説明する練習になります。これがそのまま思考力の育て方につながります。
高学年
抽象化への対応
4年生から、図形は一気に抽象的になります。
- 平行四辺形、台形、ひし形
- 立体図形の基礎、見取り図、展開図
- 分度器による角度の測定
- 平面図形の面積計算
ここで「面積って何?」がスタートします。重要なのは、計算力ではなく「なぜこの公式を使うのか」を説明できることです。(確かに図形問題の計算は複雑ですから、計算力も必要です。)
5年生になると、
- 角柱、円柱の見取り図、展開図、体積
- 合同な図形の作図
- 多角形の内角の和
- 円周率を使った円の面積、円周
6年生は総まとめです。
- 円の面積、角柱・円柱の体積
- 拡大図、縮図(相似の基礎)
先取り学習を急ぐご家庭もいらっしゃいますが、6年生で図形が苦手なお子様には、思い切って3年生まで戻ることを私はおすすめしています。
中途半端な復習よりも、土台から積み直したほうが、結局は早い。これは何度でも申し上げたいことです。
まとめ
「センス」を育てるという発想
図形が苦手なお子様には、決まって「うちの子はセンスがないから」とおっしゃる親御さんがいらっしゃいます。
でも、ここまで読んでいただいた方には、もうお分かりかと思います。
「センス」は、生まれつきのものではありません。
幼児期に手で具体物に触れた経験。低学年で言葉と図形を結びつけた経験。中学年で公式の意味を理解した経験。高学年で何度も補助線を引いた経験。そのすべての積み重ねが、後から「センス」と呼ばれているだけです。
ということは、今からでも遅くないということでもあります。年齢に応じてやるべきことは違いますが、いつ始めても、
- 身体を使う(身体性・アナログ体験)
- 手を動かす(事物教育)
- 言葉で説明する(言語化)
という三つは変わりません。
「うちの子、図形が苦手で…」とお悩みの方は、まずこの三つのうちどれが弱いかを見てあげてください。問題集を増やす前に、見るべきところがあるはずです。
