- 小学3年生58人を1年間追いかけた研究(上田ら, 2017)を読み解きました
- 読書の効果は遅れて表れる可能性があります
- 語彙力については、読む本のジャンルの違いは説明に役立ちませんでした
- 文章理解力については、図鑑や科学の本などのノンフィクションが優位でした
- ただし極端に多く借りた3人を除くと、結果は弱まります
- これは相関であって、因果関係ではありません
こんにちは。
兵庫県赤穂市の進学個別指導塾Willbe、光庵(こうあん)です。
私は「本を読みなさい」とは塾生に言って伝えてきませんでした。
言っても逆効果だと思っているからです。
しかし、本の可能性は信じています。代わりに、そこに本がある環境だけを作ってきました。
塾に図書スペースを作り、
1000冊程度の本を並べて、
です。

お迎えを待つ小学生が、暇で暇で仕方なくなって、ため息をつきながらパラパラめくる。
それでいいと思ってきました。
もっと進化したいとも思っています。
この考え方については、
以前こちらに書きました。
ところが最近、ある論文を読みまして。
「何を置くか」については、最近、あまり考えていなかったな
と思ったのです。
今日はその話をします。
読んだ論文
上田紋佳・猪原敬介・塩谷京子・小山内秀和(2017)
「語彙力・文章理解力の発達に及ぼす読書のジャンルの影響 ―小学生3年生を対象とした縦断研究―」
『読書科学』59(3), 121-133
DOI: 10.19011/sor.59.3_121
小学3年生だった子どもたちを、
4年生になるまで1年間追いかけた研究です。
読書量を、アンケートではなく、
学校図書館の貸出冊数で測っています。
アンケート調査による記事が多い印象がありますが、アンケートだと少し微妙なんです。
「読んでる?」と聞かれたら、
子どもはつい多めに答えてしまいますよね。
そういうごまかしが効かない方法です。
対象は、関西圏の私立小学校。
2回とも調査に参加した58人を分析しています。
発見① 効果は、遅れて出るのかもしれない

なるほどな!と思った点
「テストとテストのあいだに読んだ本」のほうが、テストに効果をもたらしそうなものですが、
テスト実施前に読んでいた本のほうが効いていた。
論文の著者たちは、こう書いています。
読書の効果は即効性があるものではなく、遅れて顕在化する可能性がある
つまり、
今日読んだ本が、
今月のテストに出るわけではない。
1年後、2年後に、
じわっと効いてくるのかもしれない。
ほらやっぱり効果があるじゃん?
と言いたいところですが、
これは相関です。
どうやら相関はありそうだということです。
「本を多く借りていた子は、1年後の文章理解力が高かった」
という関係が見つかっただけで、
「本を読ませたから上がった」と証明されたわけではありません。
もともと読解力の高い子が、たくさん借りていただけかもしれない。
研究者たちも、そこは慎重に書いています。
発見② ジャンルによって、話が違った

Willbeに図鑑が少ないことを思い出しました。
ここが、私にとって改めて覚えておこうと思った点です。
これから本を選ぶ際に意識します。
私はずっと「何でもいいから、そこに本があれば」と言ってきました。
マンガでもいい。
高校生用の受験教材を小学生が借りて帰って、
「思っていた本と違いました」と返しに来る。
それでいい。
経験値は溜まっている。
本当にそう思っています。今でも思っています。
この研究は本を3つに分けて調べていました。
- フィクション(物語・文学)
- ノンフィクション(それ以外。図鑑・歴史・科学など)
- 絵本
1年間の貸出冊数の平均が、これです。
| ジャンル | 平均冊数 |
|---|---|
| フィクション | 114.6冊 |
| ノンフィクション | 55.1冊 |
| 絵本 | 12.3冊 |
語彙力については、私の考えでよさそうです
ジャンルの違いは、説明に役立ちませんでした。
著者の言葉を借りるとこうです。
読む本のジャンルを区別することが、語彙力の変化を説明するのに役立つとは言えない
つまり語彙については、
何を読んでもいいのかもしれません。
マンガでもラノベでも図鑑でも。
言葉に触れること自体が大事、ということでしょうか。
ここは、ほっとしました。
ところが、文章理解力は違いました
最も効果的だったのは、ノンフィクションでした。
(β=.269, p<.05)
図鑑、歴史の本、科学の本、伝記。
そういう本をたくさん借りていた子が、
1年後の文章理解力が高かった。
フィクション(物語)ではなかったのです。
研究者たちは、事前に
「フィクションが効くだろう」
と予想していました。
先行研究がそう言っていたからです。
その予想は、論文で支持されませんでした。
自分の仮説が外れたことを、正直に書いている論文です。
もっと図鑑を塾に置きます。
値段が高いから気持ち避けていたのですが、、、
もっと図鑑を置きます笑

大事な注記
もう少しだけ、正確に書いておきます。
ここを省くと、嘘になってしまうので。
注記① 外れ値3人で結果が変わります。
貸出冊数が極端に多い子が3人いました。
1年足らずで554冊以上借りていた子たちです。
この3人を除いて計算し直すと、ノンフィクションの効果は有意傾向(p<.10)まで下がりました。
(β=.212/.252)
「有意傾向」というのは、統計的にはっきりとは言い切れないという意味です。
つまり、
58人中3人の読書家に、
結果がかなり引っ張られていた
ということです。
注記② フィクションに「負の効果」が出ましたが
計算の途中で、
フィクションの係数がマイナスになりました。
(β=−.310, p<.05)
単純に読むと
「小説を読むほど文章理解力が下がる」
という、一瞬びっくりする結果です。
ただし、これも外れ値3人を除くと消えました。
(n.s.=統計的に意味のある差ではない)
論文では、
読み過ぎの影響についても触れられています。
本を読みすぎると、
宿題など他の活動に使う時間が減ってしまう。
その負の側面?が、
読書のプラスを上回る可能性がある、
と。
(読めと言ったり読むなと言ったり忙しい大人です。)
(そういうことも含めて、ぎゃーぎゃー言ったところで)
年間554冊です。
1日1.5冊ペース。
さすがに、他のことをする時間はなさそうですよね。
年間1000冊を読む人系動画やSNSは如何わしいと思ってしまう私です。とはいえ、何人か本当に読んでいる人がいるからビックリです。無理無理😢
さらに余談ですが、
この論文の共著者である猪原敬介さんは、
2026年に出された一般向けの本でも
「本は読みすぎでもダメ」と語っておられます。
読めば読むほどよいのではなく、
1日30分ほどを無理なく続けるほうが効果が大きい、と。
年間554冊は、やはり多すぎるようです。
猪原敬介『科学的根拠が教える子どもの「すごい読書」』日経BP(2026年1月)
猪原敬介『読書効果の科学:読書の”穏やかな”力を活かす3原則』京都大学学術出版会(2024年10月)
エビデンスって言葉が流行りすぎて辟易するので、論文と出会ってなければ買いもせず、読みもしてない1冊ですが、結構硬派な良い内容でした。
注記③ 調査した学校が特殊です
この小学校、かなり読書に力を入れています。
- 1・2年生は毎日15分の朝読書
- 3・4年生は放課後に週2回15分
- 国語で毎週1コマ「図書の時間」
しかも関西圏の私立小学校で、
論文には「調査校の言語力が非常に高い」と書かれています。
赤穂の公立小学校に、そのまま当てはまるとは限りません。
注記④ 著者自身が「思索に過ぎず」と書いています
なぜノンフィクションが読解力に最も効果的だったのか?
その理由について、
論文はいくつか推測を述べたあと、
「あくまでも思索に過ぎず」
と明記しています。
理由はまだ分かっていない、ということです。
注記⑤ 「優秀」と「伸びた」は別の話です
これは論文の話ではなく、
教育について考える時の、
私なりの注意点です。
悩ましい観点なのです。
「優秀な子の話」と「伸びた子の話」が、
区別が難しい。
今回の研究もそうです。
「ノンフィクションを多く借りていた子は、1年後の成績が高かった」
これは、高かったという話です。
伸びたという話とは、少し違います。
もともと読解力のある子が、
図鑑を選んで、
1年後も相変わらず高かった。
それでも、この数字は同じように出ます。
もちろん、この研究は調査開始時点の成績を統計的に差し引いて計算しています。
そこはきちんとしています。
ただ、それでも「伸び」を測るのは難しいのです。
現場で見ていて思います。
偏差値40の子が45になった。
偏差値65の子が66になった。
数字としては、65の子のほうが上です。
でも、
起きていることの大きさは、
40→45のほうが圧倒的に大きい。
「できるようになった」という手応え。
「分かるかもしれない」という予感。
授業中に顔が上がる回数。
こういうものは、偏差値の1や5には表れません。
数字に表れにくいけれど、一番大事なことです。
教育の数字を読むときは、
「優秀さを測っているのか」
「伸びを測っているのか」
を分けて考えたほうがいいとは思うのです。
(自戒の念を込めて)
今回の研究は、
読書習慣が根づいた私立小学校の、
言語力の高い58人の話です。
そこで測れているのは、
「伸び」より「優秀さ」に近いのかもしれません。
赤穂の、これから伸びようとしている子に
そのまま当てはめるのは、慎重であるべきだと思っています。
で、私はどうするか
ここからは私の考えです。
研究が言っていることではありません。
①「読め」とは、やっぱり言わない
これは変えません。
読書は「圧倒的な暇つぶし」からしか生まれない。
お迎えを待つ小学生が、
スマホもゲームもない空間で、
ヒマでヒマで仕方なくなって、
ため息をつきながら本を開く。
あの瞬間を作るために図書スペースがあります。
声をかけて生まれるものではありません。
②棚の中身は、点検する
ここを変えます。
Willbe図書館の棚、物語に偏っていないか。
図鑑は。
科学の本は。
歴史の本は。
伝記は。
無理に読ませなくていい。
でも、そこに無ければ、選びようがない。
「そこに本がある価値」を言い続けてきた以上、
何を置くかには責任があります。
そこを考えていなかった、というのが今回の反省です。
③すぐに結果を求めない
読書の効果が遅れて出るのだとしたら、
「本を読ませたのに国語の点が上がらない」
と焦るのは、早すぎるのかもしれません。
小3で読んだ本が、小4のどこかで役に立つ。
小5で読んだ本が、中1のどこかで役に立つ。
本人も自覚しようのないことです。
そのそのなぜ伸びたかのすべてを自覚できるはずもないのです。
そういう時間感覚で見てあげたい。
もともと私は、
すぐに結果が出ないものにこそ価値がある
と思ってやってきました。
音読も、漢字の成り立ちも、図書スペースも、
今月のテストの点数には直結しません。
直接点数にはつながらないけれど重要なこと。
一見、無駄に見えること。
そこに時間を使えるのは、小学生のうちだけです。
今回の研究は、その考えを後押ししてくれるものでした。
「遅れて出る」なら、
早く始めておくしかないのですから。
よくある質問
- Q本を読めば頭が良くなりますか?
- A
小学3年生58人を1年間追いかけた研究(上田ら, 2017)では、読書量と1年後の文章理解力に関連が見られました。ただしこれは相関であり、因果関係は証明されていません。もともと読解力の高い子が多く借りていた可能性もあります。
- Q子どもにはどんなジャンルの本を読ませればいいですか?
- A
この研究では、語彙力についてはジャンルの違いが説明に役立ちませんでした。文章理解力については、図鑑・科学・歴史などのノンフィクションを多く借りていた子のほうが1年後の成績が高いという結果でした。ただし極端に多く借りた3人を除くと、結果は有意傾向まで下がります。
- Q読書の効果はいつ表れますか?
- A
この研究では、調査開始より前の8か月間の読書が1年後の文章理解力と関連していました。一方、調査期間中の11か月間の読書は関連が見られませんでした。論文は「効果が遅れて顕在化する可能性」を指摘しています。
- Q本は読みすぎても良くないのですか?
- A
この研究では年間554冊以上借りた子が3人いました。論文では、読書量が多すぎると宿題など他の活動に使う時間が減り、そのマイナスが読書のプラスを上回る可能性に触れられています。
- Q子どもに「本を読みなさい」と言うべきですか?
- A
兵庫県赤穂市の進学個別指導塾Willbeでは言いません。読書は暇な時間からしか生まれないと考えているためです。かわりに塾内に1000冊程度の図書スペースを設け、本がある環境を作っています。
最後に
研究はまだ途中です。
58人の、特殊な学校の、1年間の話です。
これで何かが決まったわけではありません。
ただ、
「本さえあればいい」ではないらしい
ということだけは、覚えておこうと思います。
そこに本がある。
その価値は変わりません。
変わるとしたら、
どんな本を、そこに置いておくか。
図書スペースは、これからも続けます。
すぐ結果が出ないからこそ、
小学生のうちにやっておきたいのです。









